表妙義山塊 星穴岳 2009-12-17 (木) 晴れ [山行記録2009年]
koku さんから星穴岳山行へのお誘いがあった。12月だし、なんだかんだと忙しかったのだが星穴岳と聞けば考える余地は無い。先月、やはり koku さんと表妙義を縦走した時、西岳から見た怪奇な姿が脳裡に焼き付けられていた。独りでと考えてはいたがちょっと危険な匂いがするし、まして星穴の探訪ともなると懸垂地点が解らない。
今年はもう無理だろうと思っていたのでこのお誘いは嬉しかった。
メンバーは koku さんと同行の女性とあたしを含め3名だ。
予定では国民宿舎から廃道となっている星穴新道を辿り山頂直下から懸垂で星穴を探訪。その後、星穴沢を下降し国民宿舎に戻る。距離は短いがハードでデンジャラスなルートだ。
しかし当日、koku さんの車にトラブルがあり出発が大幅に遅れてしまった。予定ルートを変更し中之岳神社から西岳経由で星穴岳へ。また、下降は星穴沢を下降するか、中之岳神社方面に下降するかは状況により判断ということになった。
どちらに下山しても対応できるよう、車は国民宿舎駐車場と中之岳神社駐車場に各1台デポした。あたしとしては、元々独りで決行する時はこの西岳経由のルートと思っていたし、今日は偵察だけでも充分という思いもあったので何の異存もなかった。中之岳神社出発―9:30。
神社の長い階段で汗をかいたが今日は気温が低い。ツララも時々見受けられるし地面も一部凍っている。日陰では落ち葉の上にウッスラと雪が残っているところもあり登攀となると気が抜けない雰囲気だ。ただ、申し分のないお天気はありがたい。小一時間で中之岳と西岳のコルに着いた。登山禁止の掲示がぶら下がったトラロープを潜り明瞭な踏み跡を西に辿り、西岳直下の岩場に到着。先月はトラロープが張ってあったが今日は何もないスッキリとした壁になっていて気持ちが良い。快適なクライミングを楽しみ西岳山頂到着―10:50。
山頂といっても何もない。独立した岩峰だし周りに高いところがないので山頂なのだ。しかし、展開する光景はまさに圧巻、絶景だ。星穴岳が眼下に迫りなんとも恐ろしげな怪奇な姿だ。二つの風穴は陰になってここからは見えない。ルートは壁の基部を斜め左上に登る意外になさそうだ。
そこへ辿り着くまでにも大きく切れ落ちている。
風も冷たいので早々に西岳を下降する。
踏み跡も解り難く両側も切り立っている。
振り返ると西岳が木の間に迫力のある岩肌を魅せている。やがて岩峰に阻まれるが右の急斜面を下降するようだ。下まで約30メーターほどありそうだ。トラロープがところどころに見えるが傾斜も相当ありそうだ。立木にぶら下がりトラロープを利用すればなんとか下れそうだが安全を期して懸垂下降とする。ロープを出すためザックを降ろした時不注意にもデジカメを落っことしてしまった。一度途中でバウンドしたようだが遙か下で視界から消え去った。その時は、カメラは惜しくはないがこれからの星穴が撮れないのが残念とか、自分の身代わりにカメラが落っこちたとか考えていたが、正直なところ時間が経つとだんだんカメラが惜しい気持ちが起こってきた。
懸垂下降の準備が完了してザックを担いだ時、なんとなんと次はザックのポケットから水の入ったペットボトルが落下・・・。一瞬にして視界から消えた。後で考えるとこのペットボトルの落下が幸いしたのだから不思議なものだ。
先頭で降りた koku さんがペットボトルが下のほうに見えるので拾ってくると言って沢を少し降りたところ、ペットボトルの側でカメラも見つけてくれた。どうも上から落ちると同じ場所に集まるようだ。ペットボトルが見えなければカメラは見つからなかったと思える。
以前、八ヶ岳美濃戸の駐車場を管理しているおじさんが言っていた。「あそこから落ちると遺体は滑落して大抵はあのあたりにあるはずだ。」これはヘリのレスキュー隊員の言葉だと言っていた。まるで落下の法則だネ。
なにはともあれ KOKU さんに感謝・感謝。降りた所が西岳と星穴岳のコルのようだ。ここから岩峰の基部を左に回り込み西に続く細いリッジに出る。トラバースや急下降もあったがやがて小さな洞窟があるハングした岩峰の基部に出た。星穴岳の岩峰直下のようだ。ここでエネルギー補給のため小休止。恐る恐るカメラをテストしてみたが大丈夫のようだ。数十メーター落下したが下は膝まである落ち葉だったことが幸いしたようだ。これが人間だったら・・・おお怖わぁ~。
休憩後西に向けて細い岩稜を辿るがそのまま行くと行き詰まった。 koku さんが右、あたしが左と偵察にでる。左上にトラバースするのが正解だった。フィックスが少しあるが星穴岳の南面にあたり足元がスッパリと切れ落ちている。スタンスが広いので難しくはないが距離があるので慎重にトラバースする。トラバース終了地点から右上に登るとナイフリッジになり眼前に10メーターほどの岩峰が現れた。どうもここが星穴岳のピークのようだ。
岩峰手前の木の根っこに懸垂下降用の支点があった。 koku さんによるとここが射抜き穴への下降地点だそうだ。北面から懸垂下降したが 5~6メーターの空中懸垂を含め 25メーターほどの下降だった。
↑ 無様なあたしの空中懸垂下降です。だってザックを背負って肩にはザイルを担いでいるので結構身重なんです。なにはともあれ無事着地です。
射抜き穴から見た幻想的な光景です。穴が山腹を貫通している不思議な場所です。風の通りが良いので寒い。ここは星穴岳南壁の途中のテラスという感じだ。それにしてもここから見える光景は不思議なとっても神秘的な絵のようです。遠くに荒船山の艫岩が見える。クレヨンしんちゃんの作家臼井さんが偲ばれる。
合掌。
左を見れば星穴新道から続く岩稜が圧巻だ。妙義の岩は泥混じりというか柔らかい。岩壁の実態は上の画像のように泥壁のようだ。触れば剥げ落ちる場合もあり登るには非常に危険だが、低山のため立木やブッシュが多く懸垂用の支点やホールドに利用出来る。当然、充分な確認が必要だがネ。浸食によるこの奇岩、奇景は遠くから見ると絶景となり楽しませてくれる。
テラスの東端の立木に支点をとり懸垂の準備をする。次はむすび穴探訪だ。ここから40メーター以上の懸垂となる。ロープを繋ぐとなんとか下まで届きそうだ。ロープ連結部の通過をとるかシングルロープで降りるか迷うところだが時間短縮のため 9ミリシングルで降りることにした。一応こんな場合を想定してATCガイドと8環を持ってきたのだが・・・。
しかし、シングルロープでの懸垂はあまり気分の良いものではない。荷物を背負っているのでビヨョォーンとまるでヨーヨーだ。ATCガイドで下降したがキンクがひどい。トップで下降したため途中で絡まっているロープを解すのに苦労した。しかもバックアップもとらずに降りてしまった。下までロープが届いていなければ・・・ヤバイなぁーと一瞬頭に浮かんだが結果的には1メーターほど届いてなかっただけで無事着地。状況が解らない時は必ずバックアップを採るという原則を忘れたのか無視したのか・・・大いに自己反省。
さあー、ロープの回収だと、結び目のあるほうのロープを思い切り引っ張ったが 5メータほど動いただけであとはビクとも動かない。ビナが引っ掛かっているようだ。頭上 5メーターで垂れ下がっているロープを引き戻そうと koku さんが登り返したが垂壁に近いうえこの泥壁では危険すぎる。諦めて下から何度も振り回していたところ引っ掛かりが外れてようやく回収できた。三人でホーと胸をなで下ろす。まだ下降が続くのでここで回収不可になれば一大事だった。
持ち時間不足のため、この時点で北面の星穴沢下降を諦め中之岳神社への下降に決定。ザックをデポし左の傾斜が強いルンゼを登るが落ち葉が堆積していて滑るので苦労した。
ルンゼを登り切ったところの右側に唖然とするほどのデッカイむすび穴があった―13:50。
反対側に表妙義の険しい山稜が見えて幻想的な光景だ。先程の居抜き穴の何倍かはある。何年もかかって出来たものだろうが不思議なことこのうえない。一服後、先程のデポ地点まで戻り下山を開始する。出来るだけ中之岳神社の近くに下山したいので左、左と進路を取る。涸沢を下ったり、尾根を横切ったり、これぞオフロード。傾斜の強いところでは安全上、ロープを使ったが概ね快適に下降する。
作業道のような踏み跡も時々見かけるが落ち葉がスゴくて辿れない。深いところでは腰まで潜る。まるで落ち葉のラッセルだ。
最後に7メーター程の涸滝があり落ち葉が堆積し濡れている。懸垂ではなく単にブラ下がって降りたためツルリと滑り慌ててロープにしがみついた。やはり横着なことはしないでキチンと懸垂で下降すべきと自己反省。降りたところのスグ側が車道だった。あっけなく終了。中之岳神社まで約20分、大きな達成感、満足感を感じながら歩いた。もっともっと左にルート取りしなければ神社近くに降りられないが、途中の目標がないので難しそうだ。再度、トライしても上手くいくかどうか解らないだろう。神社駐車場着―15:30。
なかなか面白い一日でした。ご同行していただいたお二人に感謝、感謝です。それにしてもこの山域は魅力的です。中之岳、西岳のコルから星穴岳までは不明瞭だが踏み跡もありロープや登攀用具さえ携行すればそれほどの危険はないと思われる。ただ、単独での入山は避けたい。もしも滑落した場合にも地形が複雑で遺体の発見が遅れることになる。また、入山禁止地域だけに自己責任だけでは済まされない。どうやらあたしもこの山塊に嵌ってしまったようだ。来年は星穴新道を辿り、星穴沢を下降してみたい。また、機会があれば相馬岳北稜、風穴尾根等も探訪したいものだ。
この山域は長い間忘れていた冒険心という憧れを思い出させてくれる。普段の生活では全く必要のないものだがやけに胸を騒がせてくれる。老いを感じ始めているあたしにとっては最上の楽しみかもしれない。いつまで続けられるか解らないが大切に持ち続けたい楽しみだ。
こんばんは。
妙義山は国道や高速から眺めるだけで1度も登ってことがありません。
高速から見えるニョキニョキ岩峰のどれかなんでしょうか?それとも見えないのでしょうか?
by 山子路爺 (2010-01-03 21:42)
あのニョキニョキとした辺りです。表妙義、裏妙義がありますが山稜は急峻です。ハイカーからクライマーまで幅広く楽しめ、なによりも近くて低山のため日帰りで充分です。雪は殆ど降らないので四季を通じて歩ける魅力ある山域ですネ。
by 官兵衛 (2010-01-04 09:33)